参考図書25.思考の整理学(外山滋比古) 

今回紹介するのは、「思考の整理学」です。1968年初版発行ですから、50年以上前に書かれた本ですが、内容はちっとも古臭くありません。確か、東大や京大で一番読まれた本として紹介されていますので、読まれた方も多いかと思います。と思って、ネットで調べてみたらなんと200万部突破だそうです。まだ読んでいない人やこれから読む人に、私が印象に残った部分を少しだけ紹介します。

●グライダーと飛行機は遠くから見ると、似ている。空を飛ぶのも同じで、グライダーが音もなく優雅に滑空しているさまは、飛行機よりもむしろ美しいくらいだ。ただ、悲しいかな、自力で飛ぶことができない。
人間には、グライダー能力と飛行機能力とがある。受動的に知識を得るのが前者、自分でものごとを発明、発見するのが後者である。両者はひとりの人間の中に同居している。
学校はグライダー人間の訓練所である。飛行機人間は作らない。優等生はグライダーとしては優秀である。グライダー兼飛行機のようになるには、どういうことを心掛ければいいかを考える本

●いまの学校は、教える側が積極的でありすぎる。親切でありすぎる。何が何でも教えてしまおうとする。学校が熱心になればなるほど、また、知識を与えるのにゆうのであればあるほど、学習者を受け身にする。本当の教育は失敗するという皮肉なことになる

●アイデアと素材さえあれば、すぐ発酵するか、ビールができるかというと、そうではない。しばらくそっとしておく(寝させる)ことで、素材と酵素の化学反応が進行する。頭の中の醸造所で、時間をかける。あまり騒ぎ立ててはいけない。しばらく忘れるのである。

●アメリカの女流作家、ウィラ・キャザー 「ひとりでは多すぎる。ひとりでは、すべてを奪ってしまう」恋人が1人しかいないと、ほかが見えなくなって、すべての秩序を崩してしまう。「ひとつでは多すぎる。ひとつでは、すべてを奪ってしまう」いくつかの筋をそれぞれかかわりをもって生きてこそ、やがて網が絞られ、ライフワークのような収穫期を迎えることができる。

●ものを考え、新しい思考を生み出す第一の条件は、あくまで独創である。自分の頭で考え出した、他の追随を許さない(と少なくとも本人の自負する)着想が必要である。ただ、それを振り回していては説得力はない。せっかくのアイデアも悪いドクマに見える。そこで、諸説を照合する。AもBもCもDも、それぞれ適度に参照しながら、新しい調和を考える。これによって独創はやせた線のようなものではなくなり、ふっくらとした幹になる。AとBとCとDを混ぜ合わせただけでは、ちゃんぽん酒であり、カクテルにはならない。
●情報の整理
勉強し、知識を吸収する一方で、不要になったものを処分し、整理する必要がある。何が大切で、何がそうでないか、これがわからないと、古新聞1枚だって整理できないが、いちいちそれを考えている暇はない。自然の内に、直観的に、あとあと必要そうなものと、不要らしいものを区分して、新陳代謝をしている。頭をよく働かせるには、この「忘れる」ことが極めて重要である。頭を高能率の工場にするためにも、どうしても絶えず忘れていく必要がある。朝目を覚まして気分爽快であるのは、夜の間に頭の中がきれいに整理されて、広々としているからである。朝の時間が思考にとって黄金の時間であるもの、頭の工場がよく整理されて、動きやすくなっているからに他ならない。

●たえず、在庫の知識を再点検して、少しずつ慎重に、臨時的なものを捨てていく。やがて、不易の知識のみが残るようになれば、そのときの知識は、それ自体が力になりうるはずである

●とにかく書いてみる。頭の中であれこれ考えていても、一向に考えがまとまらない。構想をしっかりしてから論文を書こうとする。そんな時は、気軽に書いてみればいい。いいものを書こうと欲を出すと逆効果になる。書いているうちに、頭の中に筋道が立ってくる。書くのは線上である、一時にひとつの線しか引くことができない。裏から言うと、書く作業は立体的な考え方を線上の言葉の上にのせることである。とにかく書いてみると、もつれた糸の塊を一本の糸をいと口にして、少しずつ解きほぐしていくように、だんだん考えていることがはっきりしてくる。書き出したら、あまり立ち止まらないで、どんどん先を急ぐ。細かい表現上のことなど気にしない。自転車と同じで、速度が大きいほどジャイロスコープの指向性はしっかりする。一瀉千里に書く、とにかく終わりまで行ってしまう。そこから推敲する。部分的な改修ではなく、構造的変更という大手術をする場合もある、第二稿、第三稿・・・、これ以上手を加える余地がないところまで行ったら定稿にする

いい考えが浮かぶ三上・三中
三上;馬上、枕上、厠上 (自転車、睡眠、トイレ)、 
三中;無我夢中、散歩中、入浴中

●健康法にまつわる話を聞き流してしまうのではなく、書き留めておくと、しろうと健康学もそのうちにだんだん幹と枝葉が伸びてくる。断片的な知識を散らしてしまわないで、関連あるもの同士をまとめておくと、ちょっとした会話のネタくらいにはなる。知識は心がけ次第で、自然にまとまってくれるものである。

●一般化して、なるべく普遍性の高い形にまとめておくと、同類のものが、あとあとその形と照応して、その形式を強化してくれる。つまり、自分だけの「ことわざ」のようなものをこしらえて、それによって、自己の経験と知見、思考を統率させるのである。こうして生まれた「ことわざ」が相互に関連性をもつとき、その人の思考は体系を作る方向に進む。そのためには、関心、興味の核をはっきりさせる。その核に凝集する具体的事象、経験を一般的命題に昇華して、自分だけのことわざの世界を作り上げる。こうすることで、思考の体系を作ることができる。

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