参考図書27.ホワイトカラーの生産性はなぜ低いのか

今回紹介する本は、「ホワイトカラーの生産性はなぜ低いのか」です。
著者の村田聡一郎氏はSAPジャパンの方ですが、SAP社といえば、ERPで有名ですね。
ERP (Enterprise Resource Planning・企業資源計画)とは、経営資源を有効活用しようとする考え方であり、経理・財務、購買、人事、在庫管理、生産管理、CRM、BI、販売管理などの情報を全て一元管理し、社内でリアルタイムに情報共有を可能にするシステムのことだそうです。
企業の変革を図るためにERPの導入を提案しているそうですが、多くの日本企業の共通点として、生産部門では生産性向上がどんどん進んでいるのに対して、事務部門では生産性が向上していない、それが今日の日本の凋落につながっているのではないか、というのが著者の主張です。
「全体最適の視点で業務プロセスを見直し、仕組み化する」という考え方は、ISO9001の基本的な考え方と共通するものですが、どちらも欧米流の考え方であり当然かもしれませんね。
最近、大手企業がシステムの刷新を計画して取り組んだものの、うまくいかなくて契約先のコンサル会社に対して損害賠償を訴えるニュースを耳にします。この本ではERPを導入する際に、システム部門に任せていては失敗する理由が書かれています。訴訟にまで至った理由ははっきりとはわかりませんが、一つの理由としてそうではないかと想像されます。
経営者や上級管理職の方に、ぜひ読んでいただきたい本です。

●日本の「失われた25年」とは、具体的に何を指すか。
 名目GDPについて2000年を1として、アメリカやドイツと比較すると、アメリカは2.5、ドイツは2.0まで伸びているのに対して、日本は1.0、2000年とほとんど変わらない。2000年前後を境に日本は成長が止まっている。ほぼゼロ成長が25年も続いた結果、日本はもはや先進国ではなくなりつつある。

●何が間違っているのか?
 トヨタ生産方式に代表されるカイゼン文化によって、生産性を高め現在に至るまで日本企業を支えている「ブルーカラー社員の現場力」に対して、日本のホワイトカラー社員の生産性は低いまま、ということは知られているが、なぜ低いのかを本質的に考えてこなかった。

●「働き方改革」官民挙げての一大キャンペーンがあったが、残念ながら不発だった。なぜなら、単に「残業時間を減らせ」という掛け声だけで、「どのように減らすか」を示さなかったから。

●ホワイトカラー社員がサボっているわけではない。社員個々人は真面目に、長時間頑張っている。「働き方」が間違っているのではなく、「働かせ方」が間違っているのだ。サボっているのは、管理監督職、つまり「厳しいWin-Win」をホワイトカラー職場に適用してこなかった経営陣や上級管理職なのだ。

優れた企業とは、「顧客価値の最大化を軸に、優れた業務プロセスを持ち、更にそれを高度化させていく仕組みを持つ企業」である。人は少しずつ入れ替わるし、全員がとびぬけて優秀というわけにはいかない。にもかかわらず、常に高い業績を上げ、顧客から評価される企業があるのはなぜか。それは業務プロセスが優れているから、である。
社員どうしの連携がスムーズに流れており、かつそれを常に見直していく仕組みがある。何かしらプロセスに不具合があれば、それに関係する部門が協議して、よりよく流れるように見直していく。そうした企業こそが「よい企業」になっていくのではないだろうか。

●経営者が全体最適の重要性を理解できず、さらに一度構築した全体最適なプロセスであっても顧客ニーズの変化を先取りして変えていく必要があることを、認識できていなかったのかもしれない。現場主導のカイゼン文化に任せっきりにしていたため、日本企業のIT部門はいつしか「顧客」ではなく社内の「部門」がお客様になってしまい、部門システムのスパゲッティ状態に陥っている。

●経営陣、上級管理職の仕事は、業務を「自分の力で回す」ことではない。「業務プロセスがソフトウェアに落とし込まれてしっかりと回っている状態を作る」こと、別の表現をすれば「定型業務は自分がいなくても勝手に回っていく状態を作る」ことである。

●経営者は、いわば飛行機のパイロットである。パイロットは飛行の最終責任者であり、刻々と変わる外部環境や内部環境に対して、その能力の全てをかけて対応し、機を地上に降ろさなければならない(でなければ墜落=倒産し社員が露頭に迷う)という責任を負っている。しかし、ではパイロットは飛行中、常に100%気を張っているかと言えば、そんなことはない。安定した環境では操縦の大半を「オートパイロット」つまり地蔵操縦ソフトウェアに任せておくことで、緊急事態が起きたときのために自分の脳力つまりブレインパワーをセーブしておく。できるだけオートパイロットの性能と精度を高め、その分、自分の脳力をセーブして置ける「しくみ」を作ること、企業という飛行機が自働的・自律的に微調整を重ねて飛び続けることができる「しくみ」を整える、ということである。

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