二つ目の事例は、「仕事に必要な力量の明確化とマルチスキル化」です。
一つ目の事例で、会社全体の仕事の流れを整理し、文書化・標準化しました。
次の段階として、それぞれの仕事に必要な力量を明確化し、社員がどのような力量を持っているか評価しましょう。
力量という言葉は、あまり聞きなれない言葉かもしれませんが、英語のcompetenceを訳したもので、ISOでは「意図した結果を達成するために、知識及び技能を適用する能力」と定義されています。
ISOでは重要な仕事については、必要な力量を持った人を担当させることが求められていますが、QMS経営ではさらに進めて、「マルチスキル化」を目指しましょう。
「マルチスキル化」とは一つの仕事だけでなく、いろいろな仕事をこなすことができるようにすることです。
例えば10個の仕事があり、一つの仕事しかできない社員だけだと10人必要ですが、マルチスキル人材を育成すればより少ない人数で運営できるようになります。経営にとっては「生産性向上」が期待できます。
社員の方にとっては、長年同じ仕事ばかりしているとマンネリ化してしまう恐れがありますが、その防止に役立ちます。いろいろな仕事に取り組むことで、今まで気がつかなかった新たな適性を発見できるかもしれません。また、自分しかできない仕事を抱えていると休みたいときに休めませんが、代わりの人がいれば休むことができるようになるメリットもあります。
•事例2;仕事に必要な力量の明確化とマルチスキル化
①それぞれの仕事に必要な力量(知識や技能)を明確化する。
②社員それぞれについて、力量の程度を評価する。
S;ベテラン、熟練者、A;一人前、一人でできる、B;半人前、指導を受けながらできる、C;できない
③社員の力量を評価した「力量表」(スキルマップ)を作成する。
④複数の仕事ができる多能化(マルチスキル化)を進めるため、教育訓練を行なう。
ポイントとしては、
①力量評価の結果については、社員の方の納得性が大切です。ISO9001を認証している組織でも、上司の方が評価するだけで本人はどう評価されているか知らないケースがよくあります。一方的に評価しても本人が納得していないと、先に進みません。そのためには、まず社員の方に自己評価してもらい、その結果を経営者や上司の方と面談してすり合わせるという手続きを踏むといいでしょう。また、力量表はオープンにして、社員が誰でも見えるようにしておくと納得性がより増します。
②評価した結果に基づき、力量アップの計画を立てましょう。この1年でこういう仕事をできるようにする、そのための教育係は誰が担当するということを、本人の希望も聞きながら作成します。ISO認証組織でも、単に目標期日とレベルを決めるだけで後はお任せというケースもありますが、そうではなく具体的にどのようにするか決めることが大切です。
②マルチスキル化を一方的に進めると、社員の方の負担感が増す恐れがあります。マルチスキル化のねらいや目的を十分に理解してもらった上でスタートしましょう。また、それまで特定の人にしかできなかった仕事を他の人でもできるようにすると、自分の仕事を奪われるのではないかと被害者意識を抱く方が出てくるかもしれません。会社としては、マルチスキル人材を評価するという方針を明確に伝えましょう。マルチスキル化と給与や賞与などの待遇アップはセットで検討すると、社員のモチベーション向上が期待できます。もちろん、教育係の人も評価の対象にしてください。
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