目標に対して立てた計画を実行してゆきますが、必要となる資源を明確化して提供する必要があります。既存の内部資源の実現能力を確認して、もし不足している場合は外部から持ってくるか、何らかの補強をおこなってください。立派な目標と計画は作っているけれど、必要とされる資源の手当てが十分でなく、後は精神論で頑張れ、では達成は困難です。資源としては、人、インフラストラクチャ(建物、設備、情報通信など)、環境、知識などがあります。
人に関しては、まず品質に影響を及ぼす業務について必要とされる「力量」を明確化して下さい。力量とはあまり聞きなれない言葉かもしれませんが、「意図した結果を達成するために、知識及び技能を適用する能力」とされています。要は、その仕事に対する実務能力ですね。品質の意味を、製品やサービスの品質に限定するのか、顧客満足の実現のためには会社全体の業務品質や経営品質まで含めるかどうかで、対象となる業務や要員も変わってきます。この点は会社によってまちまちです。会社としてのISOに対する取り組み方によります。
業務ごとに必要とされる力量を明確化した上で、力量を有した人にその業務を担当させてください。もし、力量をを有している人がいなければ、他から引っ張ってくるか、今いる人の中から適した人を教育訓練して力量を身につけさせる必要があります。
縦軸に必要とされるスキルを入れ、横軸にその部門に所属するメンバーを記入したマトリクスを作成し、力量を有しているかどうかを評価したものを「スキルマップ」と言います。このスキルマップを定期的に更新することで、抜け漏れを防ぐことができます。スキルマップの作り方については、別途詳しい解説をしたいと思います。
また、規格では、職場環境の整備についても求めています。職場の環境というと、暑い寒い、湿度が高い、音がうるさいなどがイメージされますが、そのようなものは物理的要因と呼ばれています。それだけではなく、社会的要因や心理的要因にも配慮する必要があるとされています。社会的要因とは、例えば,職場内での差別や対立がないかどうか、コミュニケーションはスムーズかということです。心理的要因とは、例えば,ストレス、燃え尽き症候群防止など個人的な心の問題です。簡単に言えば、働きやすい環境作りをしてください、ということですね。ISOの要求事項としては、ずっと昔から含まれていましたが、私自身の感触としては当たり前のこととして正直あまり重要視していませんでした、しかしながら、昨今の人手不足により生産活動やサービスの提供に大きな影響が出ていることを考えると、最優先で取り組むべき課題かもしれません。土台がグラグラしていては、一見立派に見える会社も「砂上の楼閣」になりかねません。
3点目は社内外のコミュニケーションの問題です。環境整備の中でコミュニケーションの重要性に触れましたが、一般の社員の方や臨時で働いている人も含めて、会社の方針や目標を伝え、いかに自分事として取り組んでもらうか、コミュニケーションの具体的な方法を予め計画して実行してください。社外についても、利害関係者に対してどのような方法でコミュニケーションするのが効果的なのかを考えて実行してください。キーワードは「予め計画する」ことであり、相手から言われて行動するのではなく、こちらから主体的に働きかけてゆくことが重要です。
最後は「文書化した情報」ということで、ISOではこの言葉が頻繁に出てきます。わかりやすく言えば、重要なことは書き物にして残してください、といことです。職人さんの場合は、仕事は見て覚えろ、この道10年続ければ一人前になれる、でいいかもしれませんが、企業活動はそうはいきません。担当者が変わっても業務品質を大きく低下させないためには、業務の標準化と文書化が不可欠です。規格には文書化の具体的な方法が書かれています。様式を決めたり、書かれている内容を担当者任せでなく上長が必ずチェックする、利用者が利用したい時にすぐに利用できるようにするなど、さまざまなルールがあります。
以上で、仕事を行う上での準備は整いました。次回からは仕事を進める上での実際の運用について解説します。
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