QMS経営ベーシック⑭利益はしくみで作り込む

品質保証や品質管理の分野では、「品質はプロセスで作り込む」という言葉があります。
むかしの品質管理は作った製品からサンプリングして検査を行い合否判定を行っていましたが、すべての製品を検査することは現実的に不可能です。ごくわずかな数のサンプルが検査に合格したからと言って、残りの製品に不良品が含まれていないかどうかは正直なところわかりませんでした。
そこで原材料を加工し製品化していく工程(プロセス)を管理することで、不良品を発生させないという考え方が生まれました。これを「品質はプロセスで作り込む」と表現することがありますが、「なぜを5回繰り返す」と同様に、トヨタ自動車の生産管理から生まれた言葉だそうです。言い方を変えると、プロセス管理とは、インプット(原材料など)からアウトプット(製品やサービス)を作り出す活動に対して、PDCAを回し、維持・改善していくことです。まさしくQMS(クオリティ・マネジメント・システム)のことですね。一説によると、ISO9001の規格要求事項は世界中のエクセレントカンパニー(優良企業)の仕事のやり方を分析し、共通するいいところを寄せ集めたものだそうです。ISO9001が生まれた40年前は、それまで「ジャパン・アズ・ナンバーワン」ともてはやされ、日本企業が世界を席巻していた時代です。当然、エクセレントカンパニーの中に多くの日本企業が含まれていたのではないかと想像されます。ISOは欧米発の規格ですが、源流には日本企業の考え方ややり方が含まれています。

では、「利益はしくみで作り込む」とはどういうことでしょうか。社員全員で一生懸命汗水たらして働いているのに全然儲からない、逆に赤字になっているという会社があります。それでは何をやっているのか、わかりませんね。会社にお勤めの方には釈迦に説法ですが、利益は売上げから経費を引いたものですから、利益が出ないということは経費が大きすぎることになります。経費とは製品やサービスを提供するために必要とされるもので、原材料費、設備費、人件費、水道光熱費などなど様々なものがあります。会社によっては、取引先に対する手数料や広告宣伝費、販売促進費なども必要になります。(原価や経費など、正確な言葉については別の機会に詳しくお話ししたいと思います。)
そして、これまでの経験からこういった製品やサービスであれば、だいたいこのくらいの経費がかかることは計算ができます。一生懸命頑張って作り販売しているのに利益が出ない、ということも冷静に考えてみれば事前にわかっていることかもしれません。利益は設計・開発の段階で8割がた決まってしまう、と言われています。これは単に設計・開発部門の責任というわけではなくて、会社の構造的な問題です。利益の出ないコスト構造になっているのに、いくら製造部門や販売部門が努力してもなかなか儲かるようにはなりません。そもそもその価格に見合うだけの特徴のある製品やサービスなのか、価格設定は適切か、売り上げ優先主義で利益が後回しになっていないか、製造や販売にかかる経費が他社と比べて高すぎないかなどを冷静に見てみる必要があります。

ISO9001の主な目的は「顧客満足度の高い製品やサービスの安定的な提供」にありますが、更に視野を広げて「儲かるしくみ作り」のツールと捉えることも可能です。業務の文書化と標準化、社員の力量評価と多能化などを進めることで生産性の向上が期待できます。設計・開発段階でのレビューをきちんとすることで、発売する製品を厳選することができます。売上だけで利益の出ない商品の発売をストップできます。また、業務を熟知した社員による内部監査で、社内のムダを発見し改善につなげることができます。
このブログでよくお話していることですが、ISO9001の認証取得を得意先から要請され取り組んでいるが、どちらかというと規格要求事項ありきで、品質管理部門が主体となって取り組んでいる組織が多いように感じます。それはそれで本来の目的は果たしているので文句を言うつもりはありませんが、せっかくコストや時間を割いて取り組むのですから、規格要求事項だけにとらわれず、もっと幅を広げてQMSを運用すると、更なる経営効果が期待できます。
そのような取組みをおこなう際は、品質管理部門だけでは荷が重いかもしれません。小さな組織であれば、経営者自らもしくは番頭役の方が旗振り役を務められるのがいいと思います。大きな組織になると、会社の組織図を描いたり、中長期的な計画を立案する部門が相応しいのではないかと考えます。リーダーシップを発揮して、会社全体のPDCAを回していただく必要があります。

一人でも多くの経営者の方に、以上のような考え方を理解していただけると幸いです。
利益を出して、その利益を社員や社会に還元して、いい経営者と評価されましょう。

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